物価とお金の世界統計

経済全体の物価計は何を測っているのか — マイナスから四桁までの開き

物価とお金について、世界の統計を定点観測する

トップ読みもの

買い物かごより広い物価のものさし

物価というと、店頭の値札を思い浮かべる人が多い。しかし経済統計には、もう少し広い範囲を見る物差しがある。国内で生み出されたモノやサービス全体の価格が、前の年と比べてどれだけ動いたかを示す指標だ。ここで使うのは、世界銀行が公表している「Inflation, GDP deflator (annual %)」で、213の国・地域について値が並んでいる。

この物差しの特徴は、日々の買い物に出てこないものまで含む点にある。工場が据え付ける機械、建設される道路や住宅、そして海外へ売られる資源や製品。これらの価格が動けば、この指標も動く。逆に、輸入されたものの値上がりは、少なくとも直接には別の扱いになる。値札の物価とこの指標がしばしば別の顔を見せるのは、そのためだ。

出典: World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」(world_bank_wdi)

一方の端はマイナス、もう一方は四桁

この指標を低い順に並べると、上位にはマイナスの国が並ぶ。2024年の値では、ブルネイが-2.8427、カタールが-1.4718、アゼルバイジャンが-1.4082、東ティモールが-1.3163、グレナダが-1.2571。セーシェル(-0.7448)、クウェート(-0.7327)、オマーン(-0.7135)、中国(-0.7072)も続く。なお最も低いリヒテンシュタインの-9.9007は2009年の値で、この国について記録が残っている年が他と異なる。

反対の端は、桁がひとつもふたつも違う。

経済全体の物価指標:上位10か国と下位10か国(2024)
経済全体の物価指標:上位10か国と下位10か国(2024)
順位国・地域値(%)
1リヒテンシュタイン-9.90072009
2ブルネイ-2.84272024
3カタール-1.47182024
10中国-0.70722024
204イラン28.37062024
206エジプト33.69152024
208トルコ59.28012024
209シリア112.14372022
210レバノン202.90772023
211アルゼンチン207.60522024
212スーダン243.90732024
213ジンバブエ1097.24672024

キューバ(32.2189、2024年)やベネズエラ(54.7196、2024年)もこの下位側に位置する。最下位のジンバブエは1097.2467で、上位側の-1前後とは同じ物差しの上に置くのが難しいほど離れている。シリア(2022年)とレバノン(2023年)は、他の多くの国と年が揃っていない点に注意したい。

出典: World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」(world_bank_wdi)

真ん中は、両端よりずっと静か

両端の派手さに比べて、集団の中心はおとなしい。2024年の世界全体の値は3.91179で、213の国・地域を値の順に並べたときのちょうど真ん中は3.91692だった。二つの数字は小数点以下二桁までほぼ重なる。

これは偶然の一致に近いが、示唆はある。世界全体の値は経済規模の大きい国ほど強く反映されるのに対し、真ん中の値は国の大小を問わず一国一票で決まる。両者が近いということは、極端な値を出している国が上下どちらにも散らばっていて、全体像を大きく引っ張るには至っていない、という読み方ができる。一方で、四桁の値を持つ国が一つあるだけで、単純な平均は容易に歪む。中心を見るなら、真ん中の値のほうが素直だ。

経済全体の物価指標:主な国の推移
経済全体の物価指標:主な国の推移

出典: World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」(world_bank_wdi)

地図にすると見える偏り

同じ数字を地図の上に置き直すと、順位表では見えない並び方が現れる。マイナス側に立つ国々には、資源やエネルギーの輸出が経済に占める比重が大きいところが目立つ。売り物の国際価格が下がれば、国内で生み出されたもの全体の価格も下がる — 値札の物価とは別の経路で、この指標は動く。

経済全体の物価指標:世界地図(2024)
経済全体の物価指標:世界地図(2024)

反対側に並ぶ国々は、地域としては中東、アフリカ、南米、ヨーロッパの一部にまたがっており、ひとつの地域にまとまっているわけではない。

出典: World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」(world_bank_wdi)

数字を読むときに置いておきたい三つの但し書き

第一に、この指標は低いほうが望ましいと単純には言えない。マイナスは、輸出品の価格下落や国内需要の弱さを映していることもある。順位表の上位が「良い」を意味するわけではない。

第二に、最新の年が国ごとに揃わない。多くは2024年だが、シリアは2022年、レバノンは2023年、リヒテンシュタインは2009年の値だ。並べて比べるときは、同じ時点の比較になっているかを確かめる必要がある。

第三に、これは年ごとの変化率であって、価格の水準ではない。前の年が大きく上がった国では、翌年の変化率が下がっても、物価の水準そのものは高いままだ。変化率の低下と、値段が下がることは別の話である。

出典: World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」(world_bank_wdi)