GDPデフレーターをどう捉えるか
国内総生産(GDP)には、金額で表した「名目」と、物価の変化を取り除いて経済活動の量を表す「実質」があります。GDPデフレーターは、この名目と実質の差を手がかりに、経済全体で取引される財やサービスの価格変化を捉える指標です。
消費者物価指数が家計の購入品に焦点を当てるのに対し、GDPデフレーターはGDPに含まれる幅広い経済活動を対象にします。そのため、企業の設備投資、政府の支出、輸出なども経済全体の価格変化として反映されます。暮らしの実感と同じ動きをするとは限りませんが、経済全体の名目規模が、数量の変化によるものなのか、価格の変化によるものなのかを考えるうえで役立ちます。
名目と実質の差を同じ項目で見る
内閣府の国民経済計算には、民間最終消費支出について、名目ベースと実質ベースのGDPの増加額が示されています。両者を並べると、同じ経済活動でも、金額の変化と数量の変化が異なることが分かります。
| 対象 | 時期 | 名目ベースの増加額 | 実質ベースの増加額 |
| 民間最終消費支出 | 2006年度、調査時期200801-200812 | 6769.110億円 | 5785.410億円 |
| 民間最終消費支出 | 2005年度、調査時期200801-200812 | 6687.610億円 | 5677.210億円 |
例えば、2006年度の民間最終消費支出では、名目ベースの増加額が6769.110億円、実質ベースの増加額が5785.410億円でした。名目の数字だけを見ると支出の増加は大きく見えますが、実質の数字は価格変化を調整した後の増加を示します。ここに差があるとき、その全てを数量の拡大として読むことはできません。
2005年度についても、名目ベースは6687.610億円、実質ベースは5677.210億円です。二つの年度を比較する場合も、名目だけでなく実質を合わせて確認することで、支出額の増加と、実際に購入された財・サービスの量の変化を切り分けやすくなります。
企業や政府を含む「経済全体」の価格計
GDPデフレーターの特徴は、家計の物価だけでなく、GDPを構成する各分野の価格をまとめて見る点にあります。個人の生活費を直接測る指標ではない一方、経済活動全体の価格環境を確認するための大きな物差しになります。
たとえば、家計が購入する商品の価格が大きく変わらなくても、企業が購入する設備や、輸出される財・サービスの価格が変化すれば、GDP全体のデフレーターにも影響します。逆に、家計が負担を感じる価格変化があっても、GDPに占める対象の範囲や重みが異なれば、同じ強さで表れない可能性があります。
この違いを理解しておくと、「GDPデフレーターが示す物価」と「暮らしの中で感じる物価」を単純に同一視せず、それぞれが何を対象にしているかを確認できます。
世界比較では定義をそろえる
世界銀行には、「Inflation, GDP deflator (annual %)」と、その連結系列にあたる「Inflation, GDP deflator: linked series (annual %)」の表があります。国や地域をまたいで経済全体の価格変化を比較するときには、こうした共通の指標を使うことで、各国の名目GDPと実質GDPの関係を同じ枠組みで読めます。
ただし、GDPデフレーターは、特定の商品の値上がりをそのまま示すものではありません。国ごとの産業構造や、GDPに含まれる支出の組み合わせによって、動き方は変わります。数字を見るときは、家計向けの物価指標なのか、経済全体を対象とする指標なのかを確認することが重要です。
GDPデフレーターは、物価を単独で評価するための数字というより、名目と実質の間にある差を読み解くための道具です。名目の増加額を見たとき、それが数量の増加なのか、価格の変化を含んだものなのかを考える。その一手間が、経済の大きさをより立体的に理解することにつながります。
出典
- 国民経済計算(内閣府)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003364978
- 国民経済計算(内閣府)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003364977
- World Bank「Inflation, GDP deflator (annual %)」
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.DEFL.KD.ZG
- World Bank「Inflation, GDP deflator: linked series (annual %)」
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.DEFL.KD.ZG.AD